過去の栄光

 屈強な兵士が守る門を抜けると、リゲルが目指してきた土地だった。
 ここが、アリアハン。もうすぐ旅立つ『勇者』を育んだ城下町なのか。
 リゲルは、控えめにあたりを見回した。
 広く、光に満ちた大通りを、沢山の人々が行き来している。忙しそうに荷を運ぶ商人たち、のんびりと立ち話をする女性たち。その中を縫うように、警備の兵たちが列をなして通る。
 店に並ぶ品々も、リゲルのいた小さな島国では見たことがないものばかりだった。機能性や実用性を殺さず、デザインにも凝った武器や防具が輝いている。道具屋の店先にも、溢れんばかりの薬草類が積まれている。
 ――何もかもが、エジンベアとは違う。
 リゲルは思わずため息をついた。
 エジンベアでは国で一、二を争う実力の持ち主だった自分。見聞を広めるためと故郷を後にしてからずいぶん経つが、今日ほど驚き、また心がときめいたことは無かった。それほどまでに、アリアハンは魅力的なところだった。
『自分の目指すものは、エジンベアにはない』
 そう言うと、家族や友人たちは笑った。この国を出て、田舎で何を得るのかと説教もされた。
 誇らしかった自分の過去など、世界の中では些末なことだと、リゲルは旅の中で知った。小さな小さな島国の中では優秀であった――それがいったい何の意味を持つというのか。むしろ、このちっぽけなプライドを捨て去りたいと、旅の中で常々思ってきた。
 とはいえ、今の自分はまだエジンベアでの輝かしい日々に縋って生きている。そこから、どうにかして抜け出したかった。何か、新たな人生の糧が欲しかった。
 そんなとき耳にしたのが、『勇者出立』という噂と、『賢者』というものの存在だった。勇者と旅をして、賢者になる。途方もない夢だが、無理ではない。
 一人旅の終着点は、アリアハンに決めた。そして、できるなら、そこから新たな旅立ちを――。

-Powered by HTML DWARF-