ふつう

 酒場に入ってきたのは、まだあどけなさを残した風貌の少年だった。自分より少し年下だろうか、とスバルは思った。酒場がまるで似合わない。
 彼は、何の気負いもなく口を開いた。
「はじめまして。オルテガの息子、レグルスです」
 ――彼が、レグルス。
 戦士オルテガの息子を名乗るにはあまりに柔らかく、優しい物腰。人の良さそうな笑顔には、白い歯がこぼれる。スバルが想像していた『勇者』とはかけ離れた雰囲気の、ごく普通の少年がそこにいた。
 レグルスは、酒場の真ん中をゆっくりと歩く。その姿は、あくまで自然体だ。普段は楽隊が乗る小さなステージまで来ると、彼はその上に登る。
「どなたか、僕と旅をしてくださいませんか?」
 彼は一段高いところから、集まった人々を見回した。酒場の中には、そのレグルスの目線よりも背が高い屈強な男たちが並び立っている。
 レグルスはステージを降り、一直線にこちらに歩み寄ってくる。そして、スバルの前で立ち止まった。
 茫洋とした印象の、年相応の外見。やはり何の変哲もない少年だ。しかし普通すぎて、かえって捉えどころがないともいえる。
「一緒に行きませんか」
 レグルスは、自分より背が高いスバルを見上げた。初めて視線が交わる。
 不思議な瞳だった。今まで出会った誰とも違う。
 スバルはその目に釘付けになった。
 そしてレグルスは、その一瞬だけ、一体この少年のどこに、とも思える覇気を放った。
 ――何だ、今のは。
 威圧されるような畏れと、引き込まれるような魅力をスバルは感じた。それは本当にその瞬間だけのことだったので、ほかの人々は気づかなかっただろう。実際、スバルが改めて見直したときには、そんな名残りなどまったく無かったのだから。
「僕は自分の直感を信じるたちで。なぜか、あなたがいいと思ったんです。……どうですか?」
 あくまで笑顔は崩さず、無邪気な調子。しかし、レグルスの裏を見たスバルにとっては、半ば脅しともとれる念押しだった。
「私――で、よければ」
「じゃあ、決まりですね」
 スバルが思わず口にした言葉に、勇者は殊更少年らしい表情でにっこりと笑う。
 彼は、まったく普通なんかじゃない。一筋縄ではいかない内面が、少年の仮面の陰に見え隠れする。もしかしたら、二つの顔を意識的に使い分けているのではないだろうか。二面性に気付いた者だけを、仲間としてスカウトしているのではなかろうか。
 ――考えすぎ、だろうか?
「さて、次は誰なのかな」
 レグルス少年はスバルだけに聞こえるようにそう言うと、次の『仲間』を探し始めた。さわやかな横顔に、スバルはこの勇者のしたたかさを見たような気がした。

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