魔導師(魔女)

「グレシェって、素敵だよねえ」
 まじまじと自分を見つめるセアに、グレシェは「何なの、急に」と首を傾げる。セアは口を尖らせた。
「細くて白くて、女の子っぽくて。赤い髪もきれいだし。いいなあ、うらやましいな」
 年頃の女の子らしく、セアはお洒落にも適度に関心があるらしかった。しかし、鍛えた体には合わない服や装飾品も多く、加えて勇者という立場上、今はじっと我慢しているようだ。
「人にはそれぞれ、得意と不得意があるものよ。私は魔法使いなんだから、細くて当然なの。セアの方こそ、私にないものをたくさん持ってるんだから」
「グレシェになくて、私にあるものって何?」
「そうねえ」
「ほら、考えないと出てこないんじゃないか」
 今度は頬を膨らませるが、本気で怒っているわけではなさそうだ。
「沢山ありすぎて、上手く言えないわ」
 ――私は、セアの何をうらやましいと思っているのだろう。
 まず、その腕力。剣の腕前。
 折れずにしなり、逆境を力にする前向きな心。
 決して後ずさりしない足。
 一緒に困難に立ち向かう仲間。
 そのどれか一つでも自分にあれば、逃げ出すこともなかった。
 腐りきった王を退けるため、旗を掲げることができたかもしれない。あの国を、変えることができたかもしれない。父を死なせずにすんだかもしれない。
「ごめん。そんなにまじめに考えなくてもいいよ。ちょっと、じゃれてみようと――思った、だけなんだ」
 セアの声に、はっとして顔を上げる。
 沈黙が続いたためか、セアが気まずそうにこちらを見ていた。自分ではそう長く考え込んでいたつもりはないが、彼女にはいらぬ心配をさせてしまったようだ。
「全部がうらやましいわ。あなたになりたいくらいよ」
 取り繕うように、グレシェは冗談混じりに言った。そうでもして気を紛らわさないと、泣き出してしまいそうだった。思わず顔をしかめると、優しい声。
「……どうしたの? どこか、痛いの?」
 堪えた涙が出てきそうになって、グレシェは顔を伏せた。セアが慌てて駆け寄り、背中をさすってくれる。
 ――その優しさも、うらやましい。

 やっぱり、私はあなたになりたい。
 もちろん、それは無理な相談だと分かっている。
 だからお願い。無力な私に代わって、あの国をひっくり返して。サマンオサ王を倒して。父の敵を取って。
 グレシェは、そう心の中で叫ぶ。

-Powered by HTML DWARF-