癒しの光
「ベホイミ」
メルツの手から広がる白い輝きが、カイの身体を包む。わき腹の辺り、盛大に破れてしまった服の裂け目から、傷口がみるみる癒えていくのが分かる。触って確かめたが、もう怪我の痕などきれいに消えていた。
メルツは消耗したのか、カイの治療を終えると、尻もちをつくように座り込んでいた。魔法を使うと、その分、精神がすり減るのだ。
「まだ、ふらふらだろ? もう少し座って休みなよ」
フィースが心配そうに彼女の肩を支えた。蒼白な顔で、メルツは立ち上がる。
「大丈夫なのか?」
「ええ。何でもありません、この程度なら。……カイ、先を急ぎましょう」
やせ我慢に違いなかった。しかし、それがメルツの本心であることは一目瞭然だった。旅を始めた頃は、カイが何か言う度に泣きそうになっていたメルツ。それが今は、弱音など吐かず、常に自分の役目を心得て、困難に立ち向かうようになっていた。
「これじゃ、君の方が体力を削られるぜ?」
「カイを助けて私が倒れるなら、それは誇りです」
「君はいつもそうだ」
フィースがため息をついた。
「カイを守ることが、国王に命ぜられた、私の義務です」
「……カイ、お前も何か言ってやってくれよ」
メルツの頑なさに、フィースが苦笑いでカイの方を見た。これまでもこんな光景は何度も目にしていたが、その求めにカイが応えたことはなかった。
パーティーの中で一番年上ながら、職業上のハンディもあるだろう、身体能力では一番の不安を抱えているメルツ。彼女にとっては過酷な旅だったろうに、それにもへこたれず、遅れずに食らいついてきている。
回復はすべて彼女に任せきりである現状で、なおも尽きないその気力は、驚異的ですらあるはずだ。さすがは国で一番の癒し手と見込まれた僧侶。
しかし、その彼女が今、ふらつく足を懸命に抑え、荒い息で立っている。
カイの中で、何かがほどけていく。
他人などには興味はない。仲間などいらない。
だが、あいつに今倒れられると俺が困る。それだけだ。それ以上でも、以下でもないはずだ。
「今日は、もう休むぞ。近い街まで飛ぶ」
「ほんと?」
リンが驚きを隠さない様子で聞き返してきた。もちろん、カイは返事はしない。ただ一言、呟いただけだ。
「ルーラ」
――俺が、人のことを思う、だと?
――俺がこれまで癒されてきたのは、傷だったのか、それとも心か。