一撃死

「メルツ。……余計なことは考えずに、俺たちの後ろに隠れていろ。庇いきれない分は、上手く避けろよ」
 カイは柄にもなく冗談めかして言うと、よろめく足に力を入れ、顔を上げて敵を睨み付けた。
 攻撃力も耐久力もない自分を庇うために、フィースもリンも、そしていつも顔色を変えない勇者の彼でさえも、体を支えるのがやっとの状態にまで陥っている。
 なんにせよ、相手が多すぎる。手っ取り早く敵の数を減らして、みんなの負担を軽くすることが、自分にできる最善の策ではないのか。今こそがあの呪文を使うときではないのかとメルツは自問自答したが、答えはあっさりと出た。
 私にできるのは、それだけだ。
 複数の魔物に一撃で死をもたらす、聖職者にはまるで似つかわしくない呪文。神学校でその危険さはくどいほどに注意を受けていたから、当然ながら実際に使うのは初めてだ。しかし、今はそんなことに気を回す余裕もない。
「彼の者らの魂を、彼方の星の元へ。永久(とわ)の眠りを運べ、言霊よ――」
 メルツは神経を尖らせると重い錫杖を両手で頭上にかざし、高らかに唱えた。
「――ザラキ」
 途端に、辺りが一瞬だけ静まりかえった。
 しかし、すぐにパーティを空から狙っていた魔物たちが鈍い音と共に落下し、次々に地面に叩き付けられる。メルツだけではなく、誰もが声もなくその凄惨な光景をただ見ていた。
 なきがらは苦悶の表情を浮かべるでもなく、ただ時が止まったかのように目をしっかりと開いたままで降ってきたが、それがかえって、彼らが圧倒的な死に屈した証のようにメルツには思えた。そして、その死を与えたのは他でもない自分が口にした、たった三文字。
「いや――です。……こんなの、いや!」
 メルツは頭を抱え、うずくまることしかできなかった。

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