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親しい間柄ですか?

01 完全無欠

 転校生はロボットらしい。
 馬鹿げた噂は驚くべきことに事実だった。職員室から教室に案内するまでの間だったが、隣を歩く美少女――いや、少女のように見える精密機械の扱いに、僕は困り果てていた。とりあえず間を持たせようと自己紹介してみる。
「クラス委員の鳥海鉄之介です」
「トリウミテツノスケさん、私は七宮ファーです。平均的な十七歳女子以上の知能、運動能力で設定されています。一年間、データ収集と感情プログラムの調整を行います」
 彼女はガラス玉のような灰色の瞳で僕を真正面から捉え、抑揚のない声で無表情に答えた。なるほどこれは機械だ。
「テスでいいよ。あだ名。皆そう呼ぶから」
「アダナ?」
「友達同士で使う名前のこと」
「私とトリウミテツノスケさんとは心を通い合わせることが可能な、親しい間柄ですか」
 辞書のような質問に苦笑しつつ頷くと、彼女は「了解です、テスさん」と、やはり無表情で答える。僕はファーの最初の『友達』に認定されたらしい。
 これまでのファーにはあだ名という概念がなかったのだろう。つまり、データベースにない事柄を勉強しに転校して来たということか。彼女が完璧ではないと知った僕は、思わず微笑んでいた。
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