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親しい間柄ですか?

06 黒ぶちメガネ

 授業が終わり、僕は掛けていた眼鏡をケースに戻す。隣に座ったファーはその様子をしげしげと観察していた。目が合ったので、僕は不思議に思って彼女に聞いてみた。
「眼鏡、珍しい?」
「はい。私には、『視力が悪い』という感覚がないので」
「そっか。試しに掛けてみる?」
 頷いた彼女は、受け取った僕の眼鏡をそっと顔に添える。ファーの女性らしい顔にスクエアフレームの黒縁眼鏡は強すぎるのか、どうもしっくりこない。しばらくして、ファーは律儀にも掛け心地をレポートしてくれた。
「装着した状態では、ピントを上手く合わせられません。……そう考えると、人間の目はよくできているのですね」
「でも、ファーの方が色々と優秀じゃないの?」
「機能上はそうです。ですが、私は人間にはなれませんから」
 ファーが、ぽつりと呟く。
 彼女は、ロボットなのだ――僕ははっとして息を飲んだ。ようやく学校生活に馴染んできたファーとの間に、やはり見えない壁があることを認識してしまったから。
 恐る恐る、僕は尋ねる。
「……ファーは、人間になりたいの?」
「……いいえ」
 それはいつものように抑制の効いた声だったが、眼鏡を外した彼女はどことなく寂しげに見えた。
(499字)
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