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親しい間柄ですか?

春雷

 雨の匂いが漂う通学路、僕は前を行く同級生を呼び止めた。振り返ると、シャラシャラという無機的な響き。人工毛髪が擦れた音だろうか。
「予報見た?」
 にこりと笑って、ファーは手にした鞄を叩いた。
「雷ですね。……念には念を入れて、予備電源まで持ってきちゃいました。テスさん、もしものときは」
「任せて」
 僕は胸を叩いてみせた。
 外見は限りなく人間に近いが、ファーは精密機器だ。落雷で調子を崩すことはよくあるし、一時的にスリープして自身を守ることさえある。僕はクラス委員として、そんなときの復帰の手順を教え込まれているのだった。
「アンドロイドも、色々と大変だね」
 ファーが人間社会に懸命に馴染もうとしているからこそ、間近で見ている僕には辛いときもある。そんな気持ちから出た何気ない一言に、ファーはその辺のヒトよりもヒトらしい表情で空を見上げた。
「私、この季節が好きですから。いつも今頃――センサが雷を感知すると、数日後には平均気温が上昇して、みなさんの顔も明るくなります。そういう人間も、好き」
 少し照れくさそうに、ファーが微笑む。僕は春のような温かさに満たされながら、雷鳴を遠くに聞いていた。
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