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一日目

 学校から帰ると、居間には重そうなお腹を抱えた姉とその息子、リクくん。姉は出産のため戻ってきて、明日から入院だ。
「アヤおばちゃんにこんにちはは?」
 促されてもリクくんは無言。
「無理だよ、ほぼ初対面だし」
 私も俯いたまま自分の部屋へ。明日からを思うと気が重い。

二日目

 姉にベッドから見送られ、リクくんは病院を後にした。
「リクくん、お母さんいなくても大丈夫?」
「へいき」
 二日目にして初めてした会話だった。
 ドライでしっかり者のリクくん。寂しいと泣いてくれればまだかわいげもあるのにと、私は小さな手を引きながら考える。

三日目

「リクくん、ご飯どう?」
「おいしい」
甥っ子はそつなく答えた。母の料理は姉とは味付けも彩りも違うだろうに、リクくんは残さない。
「嫌いな食べ物はないの?」
「ない」
「じゃあ、好きな食べ物は?」
「ひじきと、えだまめ」
「……そうなんだ」
 渋い味覚をお持ちのようだ。

四日目

 リクくんと留守番。五歳児を相手に、かなり気まずい。
「絵本見る?」
「いい」
「ミニカーもあるよ」
「いい」
「粘土は?」
 ぴくり、とリクくんの眉が動いた。
「お姉ちゃん、粘土上手だよ」
「かいじゅう、つくれる?」
 私の趣味はフィギュア制作。その腕が初めて役に立つ。

五日目

 病院の廊下で、リクくんは何か呟いている。
「どうしたの?」
「おかあさんのおうえん」
 よくよく聞けば、小さな声でがんばれ、がんばれと繰り返していた。私はリクくんを応援しようとぎゅっと彼の手を握る。
 リクくんが疲れて眠り込んでしまったころ、彼の弟は産声を上げた。
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