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親しい間柄ですか?

10 不良品

「ファー?」
 はっとしたように顔を上げた彼女は、辺りを見回して僕に気づくと、申し訳なさそうに目を伏せる。心ここにあらずといった様子は、メンテナンスで日々最高の状態に保たれているはずのファーには有り得ない姿だった。
「悩み事?」
 僕は彼女に倣い、目線を低くして尋ねる。すると、ファーは「分かりません」と即答した。もしかしたら彼女には悩みという概念自体が無いのかもしれない。しかしそれならば原因不明の不調に見舞われて、なおさら苦しいだろう。
「嫌じゃないなら、話すと楽になるかもよ」
「テスさんに迷惑は――」
 ファーはそこまで言いかけたが、僕の顔を見るとかすかに微笑んだ。
「……研究員から、オーバーヒートが多すぎると指摘されました。もし不良品と判断されれば開発は終了、つまり学校に来られなくなるということです。ここが大好きだから、それだけは嫌です」
 彼女には珍しく、言葉が堰を切ったように溢れ出してくる。
 大丈夫と無責任に励ました僕に、軽く頷くファー。強がりだと分かってはいたが、彼女の表情は会話の前よりも確実に明るい。それに比べ、『僕も嫌だ』の一言も出せない自分がどうにも情けなく、僕は拳を握りしめていた。
(499字)
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