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親しい間柄ですか?

12 隣の人

 隣のファーと目が合った。見返す僕に気付くと、彼女はばつが悪そうにそっぽを向く。
 妙に気になって、僕はノートの端に『何か用事?』と書き付け、ファーの机の方へと押しやった。
『すみません。テスさんを観察していました』
 彼女は先生が黒板に向かったのを確認し、返事をくれた。僕の眉間にますます皺が寄るのを見たファーは、さらに書き足す。
『機械と人間の違いとは何かを考えていて』
『僕なんか参考になんないよ?』
 ファーは何かを思い詰めたような表情で、静かに首を振る。
 恐らく彼女は、機械と人間――そんな深く重いテーマを、転入してからずっと考えているはずだ。もしかしたらそれを追求するのがナナミヤの狙い、ファーが作られた理由なのだろうか。だとしたら、彼女の背負った使命は途方もなく大きい。
 今にも悩みに潰されそうな顔をしている彼女を励まそうと、僕は大きな字で答えを書く。
 息を飲んだファーは一瞬目を丸くしたが、すぐに満面に邪気のない笑みを湛えて僕を見た。僕も、ファーと顔を見合わせて笑う。
『ご飯を食べるか食べないか』
 一緒に過ごしてきた月日が教えてくれる。僕にとっては、ファーと僕との違いなんてその程度なのだ、と。
(499字)
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