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親しい間柄ですか?

13 リクエスト

「私と、寄り道しませんか」
「どうしたの、突然」
 ファーが大真面目に言うので、僕は思わず聞き返した。大抵は学校が終わるとナナミヤの研究所に直行している彼女が、今日に限って、いったいどういう風の吹き回しなのか。
 彼女は眉を寄せると、小さく呟く。
「……実は、研究の一環なんです。自由行動時の感情変化を見たいとのことで」
「ふーん」
 僕にはよく分からないが、ロボットの寄り道はナナミヤにとっては貴重なデータになるらしい。
 ファーが全く意識してくれていないということは少々悲しいが、理由は何にせよ、これはデートに違いない。そのパートナーに僕を選んでくれたのなら、喜んで実験台になろう。
「気を悪くされましたか?」
 僕を見つめる灰色の瞳が不安げに揺れている。
 沈黙が誤解されてしまったのかもしれないと、僕は慌てて首を横に振った。平静を装いつつ、ファーに尋ねる。
「どこか、行きたい場所とかある?」
「私はそういったことに詳しくないので、テスさんに教えてもらおうと思いました」
 ファーは妙に自信に満ちた表情でそう口にした。どうやら、責任重大みたいだぞ――胸の中で嬉しい悲鳴を上げながら、僕は教科書を鞄に収め始めた。
(496字)
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