親しい間柄ですか?
17 右に曲がります
終業式。世話係としての僕の最後の仕事は、見送りだった。
他愛無い会話の間に、僕たちは校門へとたどり着いてしまった。ここを出て右へ曲がれば、ファーはいつものように研究所へと帰り――そして、いなくなる。
「本当にお世話になりました。世間知らずの機械の相手は、大変だったのではないですか?」
「確かに、戸惑ったけどね」
僕の素直な言葉に、ファーは俯き、恥ずかしそうに笑った。
はじめは、ロボットのお守りなんて嫌だった。
しかし今は、一年前の彼女には無かった優しい表情が僕を満たしてくれる。僕は、ファーが誰よりも人間らしく、可愛らしいということを知っている。
「今、ファーは僕にとって、ちゃんと一人の人間だよ。今さらこんなこと言ったってファーは困るだろうけど、明日もあさっても、ずっと一緒にいたかった。……君が、好きなんだ」
ファーは目を丸くして立ち尽くしていたが、やがてその場にしゃがみ込んでしまった。
「あり、が、とう――」
顔を隠すように覆う両手の奥から、かすれた声の後に嗚咽が漏れ出す。泣きじゃくる彼女の肩に触れると、かつてないほどに熱かった。
「研究所まで、送るから」
それは、僕にできる最後の抵抗だった。
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