みどりのしずく

むかしむかし

 ある国に、若い王子がいました。

 王子は年頃になり、花嫁にふさわしい女性を探すことになりました。
 家来たちは美しい姫がいると聞いては城下町はもちろん遠くの国へも出かけていきましたが、王子のお気に召すような娘はなかなか見つかりませんでした。

 そのうちに、待ちきれなくなった王子はみずから花嫁探しに出かけるようになりました。
 けれど、山と森と河を越えてたどり着いた街にもお望みの娘はおりません。
いつものようにあきらめて城へと帰ろうとしたとき、一人の美しい少女が王子の目に留まりました。ひと目で少女に心をうばわれた王子はたずねました。
「私は、きみを花嫁にしたい。いっしょに来てはくれないか」
 しかし、少女は古道具屋の店先に立ったまま。ひとことも答えないどころか表情ひとつ変えません。
 立ちつくしている王子を見かねて、お店の主人が言いました。
「王子さま、それはうちの売り物で、とても珍しい異国の人形です。お気に召されたのならおゆずりしましょう」
 こうして、王子は人形の娘を花嫁に迎えました。

 やがて王子は王となりました。
 しかし、人形の少女はいくら時が流れても人形のまま。王がいくら話しかけても、少女はまばたきひとつしません。
それを悲しんだ王は、苦難に苦難を重ねて『碧の雫』という宝を手に入れました。どんなものにも命を与えるという魔法の宝石です。
「さあ、これでやっと君と話ができるよ」
 王はそう言って、人形の目の前にそれをかざしました。

 すると、不思議なことに人形の頬にはさっと赤みがさしました。
「はじめまして、王さま。私に命を与えてくださってありがとうございます」
 わずかも動くことのなかった少女は生き生きと目を輝かせて、王に言いました。
「ずっと、お慕いしておりました。これからも、いつまでもおそばに置いてくださいね」

 こうして、王と美しいお后は幸せに暮らしました。