SIREN お試し読みページ

 当サイトのお話たちのお試し読みページです。各話のお勧めシーンを抜粋して、1ページにまとめました。
 どれから読もうかお悩みの方のナビ代わりになれば幸いです。

お試し一覧
 five-star 【現代 ところによりファンタジー 学園 恋愛 幼なじみ 異能】
 みどりのしずく 【異世界 ファンタジー やや恋愛 疑似家族 魔法とお仕事】
 親しい間柄ですか? 【現代 ファンタジー/ゆるSF? 学園 恋愛 ロボット少女】
 雪椿 【現代 学園 恋愛 不器用教師×女子高生】
 その、幽かな声を 【現代 ファンタジー 恋愛 異能少年 人外少女 田舎】
 花暦 【現代 学園 恋愛 ファンタジー 異能 花言葉】

「five-star」〜遍編


「直接的に私があの人たちに何かしたわけじゃないけど、原因は私にあります。要さんだって、痛い目に遭うのは嫌でしょう。あの大学生たちみたいになりたくなければ私を放っておいて下さい」
「だから、周りに人を寄せつけないようにしてるのか。みんなに迷惑かからないように、塚原さんを好きだって声かけてくれたやつも全部フって? どうしてそこまでしなきゃならないんだ。『祟り』って何なんだよ?」
 非難するかのような俺の口調に、塚原は下唇を噛んで俯く。その何かを耐えるような表情は始業式の日、見た覚えがあった。
 それで確信した。きっと授業中の俺の推測は間違ってはいない。
「……今日はもう一切口を開かないから、粘っても無駄ですよ」
「ほんとは皆と仲良くしたいんじゃないのか。そんなんで、毎日楽しいのかよ」
「楽しくはないけど、満足はしてる。……これで、最後です。あなたは、今ならまだ間に合うはずだから。……もう帰ってください」



「みどりのしずく」〜第一話 初仕事

 魔法陣と魔法書を見比べていたラグに、ある素朴な疑問が湧いた。
「でも、先生。どうして、人形にこんなに厳重な魔法陣を書く必要があったんでしょう?」
 すると、ラグの問いにフィスタはいたずらっぽい笑みを浮かべ、こう言った。
「おや。この子が人形だなんて、私は言っていませんよ?」
「……くそっ、騙された!」
「え? ……まさか、本物の――」
 ルーがいち早く、そしてラグがそれに少し遅れて叫ぶ。
 フィスタは、力無く自分の腕に身体を預けている人形、いや少年の頭を撫でた。
「彼はれっきとした亜人の男の子です」
 一見悲しみを堪えているように見えるものの、フィスタは強い怒りを宿した瞳で床を睨み付けていた。
 ラグは、優しそうな師匠の意外な一面を見せつけられて、少し不安になった。しかし同時に、フィスタが弟子たちに表情を悟られないよう、咄嗟に顔を伏せて歯を食いしばったことにも気付いていた。
 フィスタは再び少年を寝かせると、いつもの調子に戻って仕事の内容を話し出した。
「今回の仕事はふたつです。……一つはこの陣を解いて、彼を自由の身にすること。もう一つは、この子とそっくり同じ外見の人形を作ること。魔法陣はラグ、人形作りはルーにたくさん手伝ってもらいますから、よろしくお願いしますね」



「親しい間柄ですか?」〜01 完全無欠

 転校生はロボットらしい。
 馬鹿げた噂は驚くべきことに事実だった。職員室から教室に案内するまでの間だったが、隣を歩く美少女――いや、少女のように見える精密機械の扱いに、僕は困り果てていた。とりあえず間を持たせようと自己紹介してみる。
「クラス委員の鳥海鉄之介です」
「トリウミテツノスケさん、私は七宮ファーです。平均的な十七歳女子以上の知能、運動能力で設定されています。一年間、データ収集と感情プログラムの調整を行います」
 彼女はガラス玉のような灰色の瞳で僕を真正面から捉え、抑揚のない声で無表情に答えた。なるほどこれは機械だ。
「テスでいいよ。あだ名。皆そう呼ぶから」
「アダナ?」
「友達同士で使う名前のこと」
「私とトリウミテツノスケさんとは心を通い合わせることが可能な、親しい間柄ですか」
 辞書のような質問に苦笑しつつ頷くと、彼女は「了解です、テスさん」と、やはり無表情で答える。僕はファーの最初の『友達』に認定されたらしい。



「雪椿」〜05 何物にも染まりうる魂

 ただゆき、と口に出したのはこれが初めてだった。
 雪の理、なんて美しい名前――そしてたぶん、先生の教え子でいる限りはもう呼ぶことのない名前だ。そう考えた途端みるみる目頭が熱くなってきて、顔を見られないように風下を向いた。私なりに素直に思っていることをぶつけたのだから後悔はしていない。でも、生意気なこと、余計なこと――気休めの慰めや同情だと思われていたら。
 先生は白衣がはためくのも気にせず、無言のまま立っている。気まずさがじわじわと苦しくなり、私はあっという間に音を上げた。
「……私、今日はもう帰りますね。励ましていただいて、ありがとうございました」
 できるだけ明るく言って一礼し、扉へ向かう。踏み出す足は予想外に重くて、歩いても歩いても校舎は近づいてこなかった。

 あと数歩、扉の向こう側に入ってしまえばどんな顔をしたって先生には見られなくて済むから、もう少しだけの我慢。そんな矢先、私の身体を鋭い破裂音が打った。
「藤倉!」
 それに続いて追ってくる低い声が、建物にぶつかって反響する。
 衣擦れが耳に触れて恐る恐る振り向く。先生は私のすぐ後ろまで近づいて来ていて、さっきまで彼が立っていた非常階段の辺りにはマグカップの破片が散らばっていた。



「その、幽かな声を」〜01 至上の声

「誰かいるんですか」
『……儂の声が聞こえるのか?』
 古めかしい言葉づかいとはミスマッチな、若い女の鈴を転がすように美しい声。先ほどまでよりは絞ったボリュームで、鼓膜を震わせない『音ではない声』が聖の耳に届いた。かつて聞いたことがないほどの佳音にうっとりしながらも、聖は頷くと「僕はちょっと特殊なんです」と返す。
「あなたが誰なのかはわからないんですが、僕はあなたに危害を加えるつもりはありません。ただ、もう少しだけ小さい声で話してもらえればと思って、お願いに来ました。あなたの声は僕には大きすぎるみたいなんです」
「これでよいのか」
 気を遣ってくれたらしく、今度は耳栓が役に立つ音、生の声がごく近くで聞こえた。直接語りかけるのを止めてくれたおかげで頭痛は嘘のように去っている。いきなり喧嘩を売られたらどうしようかとビクビクしていたけれど、話の通じる相手で良かった。
 聖が辺りを見回すと、いつの間に現れたのか、聖と同じくらいの歳の女の子が祠の横に座っていた。雪のように白い着物に、木漏れ日を受けて輝く栗色の髪の毛がよく映えている。長い睫毛も栗色で、黒目がちの大きな目を花々しく縁取っていた。
 しかし、見た目は完全に人間に化けていても――どれだけ美しくても、恐らく人外の何かのはずだ。



「花暦」〜02 ヒマワリ

 窓の外には花壇。ヒマワリが行儀良く並び、太陽の方を向いている。ただし、秋の気配が忍び寄ってきたこの頃、その頭は真夏よりも低くなり、しょんぼりしているように見える。
 寺内さんがぽつりと呟いた。
「秋のヒマワリって泣いてるみたい」
「夏の勢いが無くなって、下がってくるからさ」
「きっと、太陽が何か言ったの。ヒマワリを失望させるようなことを。それで傷つくなら、見上げなければいいのにね」
 寺内さんはたまに捻くれている。それは決して僕を不快にさせる類のものではなくて、むしろ心を引き寄せられるものだ。
 そう思えるのは、僕が初めて彼女を意識したのが泣き顔だったからだろう。きっとあれが寺内さんの本質で、それを覆う少しねじれた言葉は『自分』を守るための盾だ。
「それでも太陽に惹かれるんだね。目は逸らしても、顔は常に太陽を向いてる。……ヒマワリの花言葉は『憧れ』だよ」